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オムニチャネルだけでは不十分!わざわざ行きたくなるお店のキーワードは「意図した不効率」

オムニチャネル化の先にあるのは便利化であり同質化

どうも!買い物中毒のファション通販アドバイザーの野田(@KURUZE)です。お買い物してますか?

今日のブログは「わざわざお店まで足を運ぶ理由」という少し壮大なテーマです。ここ数年ボクが感じてる違和感の1つに「オムニチャネル化」が小売の救世主というか、どこもかしこも絶対に取り組まねばならないマストな施策であるかのように言われ続けていることがあります。

ポイントの連携、会員統合、在庫一元化、店舗受け取り………あらゆるチャネルで一貫した体験を提供するという概念は素晴らしいことだと思いますし、確かに取り組むべきことでしょう。でも「その先もちゃんと考えているのかな?」ってことがボクの違和感の元です。

今巷で言われるようなオムニチャネルの概念が完成したとして、そこに待ち受ける未来は「便利化」の延長線上にあると考えています。ポイントが共通で使える、ネットで買って店舗で受け取れる、といったオムニチャネル化の多くは買い物が便利になるという体験価値を提供するものなのかなと。

買い物が生きがいのボクは、買い物には主に二種類あると思っています。それは「必要な買い物」と「楽しむ買い物」。「必要な買い物」とは、食料とか日用品の買い出しといった作業としての買い物です。一方で「楽しむ買い物」とは、スニーカーを買うとかオモチャを買うとか、必ずしも必要ではないけど心を満たしてくれる買い物です。

「必要な買い物」に求めることは、安くて手間がかからないこと。買い物に求めるものは「効率」です。一方で「楽しむ買い物」は、価格が高くても買うのが不便でも、なんとしてでも手に入れたいものが多く、得てして「不効率」な買い物であることが多い。

ボクはオムニチャネル化とはある意味で「便利競争」だと考えているので、オムニチャネル化の先にあるのは「効率化」であり、やがては「同質化」なのではないかと思っています。

だから「必要な買い物」には適した取り組みだと思うし、求めるものは「効率化」なので基本的にはどこも最後は同じような施策内容になっていくと予想しています。そして延命はできるけれど、結局は効率化の覇者である amazon に脅かされ続けていくとも考えています。

例えばユニクロのような日常着であれば「必要な買い物」に属すると思うので、効果的な取り組みになっていくのかもしれません。しかしアパレルブランドの多くは「楽しむ買い物」としての価値を提供した方が良いと思います。なぜなら高い洋服は生活にマストではないので、お客様に提供すべきは「買い物の便利さよりも楽しさ」なんじゃないかと思っているからです。

そしてそれこそが「わざわざお店まで足を運ぶ理由」になると確信しています。

 

 「意図した不効率」を意識して、お店に一定の ”ゆらぎ” を作る

そこで「楽しむ買い物」を提供するにはどうしたら良いのだろう?とずっと考えています。その答えの1つに「人」があると思いますし、そう確信しているからこそ、こうしてブログも書くしSNSで発信も続けます。しかし比較的大きな規模になってくると、それだけじゃ足りないという面も見えてきました。

だからこそ足りない部分を補う他の要素を求めて海外に行ったり、行ってきた人の話を聞いて情報取集をしてきたのですが、その中で引っかかった項目をつなぎ合わせると1つのキーワードが自分の中で浮かんできました。それは「意図した不効率」というキーワードです。

意図した不効率とは「何か出てきそうなお店」と思わせるために「お店に一定の ”ゆらぎ” を作る」ことを指します。そしてこの ”ゆらぎ” こそが「わざわざお店に来たくなる理由」となるのです。どういうことか説明していきますね。

みんなも経験あると思うのですが、海外に買い物にいくとお店に入るたびに「ドキドキ」しませんか? 日本でいうと何時間もかかる遠くのアウトレットモールに行った時もそうかもしれません。買った後より買う前が一番楽しいというか「何が出てくるか分からない」という宝探しに似たあの感覚です。

あれって通販サイトを見ていても一定のドキドキはあるものの、わざわざ足を運んだお店に対する期待感のドキドキには全然叶わない。でも多くの場合、そのドキドキは空振りに終わります。しかし次のお店に入ると懲りずにまたドキドキ。そしてまた空振り。この繰り返しを何回も何回も繰り返す。そんな経験って誰もがあるんじゃないでしょうか。

でも稀に「あったーーーーー!」って発見したときの感動たるや、もう今までの疲れもすっ飛ぶくらい快感。その商品を見つけてから買って着用するという、一連の商品との関わりの中で一番嬉しい瞬間というのは実は着た時より、出会った時という買い物は意外と多いものです。

ではそういう感動を呼び起こす商品はどんなものなのか? いくつか自分で定義してみました

1. 日本では販売していないもの
2. 日本では完売しているもの
3. 日本ではまだ発売していないもの

この3つの中にほとんどが当てはまるかなと。

1はオフホワイト×コンバースのような日本未発売商品。地域格差が発生する商品です。2と3についてはこれも地域格差ではあるのですが、そこに時間という概念が追加されるもので「日本ではすでに完売しているもの」だったり「日本ではまだ発売していないもの」のことを指します。

このように日本のラインナップにはない、ごく一部の商品を求めて何軒も何軒もドキドキしながらお店をハシゴする。デジタル全盛のこのご時世にも関わらず、そんな不効率なことを平気でします。ここにヒントがあるんじゃないかなと思いました。

 

通販ではなく、わざわざお店に行きたくなる”ゆらぎ”の事例

そこで地域格差をお店と通販に置き換えることで「楽しむ買い物」を提供することができるようになり「わざわざお店まで足を運ぶ理由」の1つが作れるのではないかと思いました。

つまり店舗と通販で商品の”ゆらぎ”をつくるというイメージです。例えば、もうなくなってしまいましたが銀座のTHE・PARK・ING・GINZAのイメージ。

The parking ginza spring has come 11
画像引用:FAST

The parking ginza spring has come 14
画像引用:FAST

The parking ginza spring has come 2
画像引用:FAST

ここは駐車場をコンセプトにヒロシさんが手がけていたお店なんですが、何がセンス良いかってボクはお店が常に”ゆらぎ”を持った状態になっていることだと感じていました。以下は以前のブログからの引用ですが

お店に変化を出す方法について店舗の方に尋ねると「ボディを変えます」とよく返ってきます。でもボクは常々「これだけ情報が多い中で、ボディを変えただけでお客さんは気づいてくれるのかな?」と思っていました。もっと「無かったはずのものがある」というくらい劇的な変化を持たせない限り、お客さんはその変化に気づかないんじゃないかと。

( 中略 )

お店の中に違うお店を出す、セレクトするのは商品ではなくお店。それくらい劇的な変化があって初めてお客さんはその違いに気づき「わざわざ来たい」と思うお店になるんじゃないかなぁと感じました。店舗営業の方は大変ですけどね (笑) 。

セレクトしたものをお店に自然に馴染ませるのではなく、あえて異質な存在として切り出すことで期間限定感が演出される。また内装も1つ1つの区画を分けて、どこもかしこも何千万もかけて内装を入れる時代じゃないと思うんです。だってそこまでお金かけたら変化できないもん。もっとコンテナやラックで構成して、可変させることを前提としたフロアに変える ( 銀座のDOVERとか、もうないけど POOL のイメージね ) 方が変化が容易だし、今の時代に合っているんじゃないかなって。

服屋が服しか売っちゃダメって決められたわけではないし、ポップアップは商業施設だけの専売特許でもないと思うので、お店の一角に知り合いの化粧品ブランドとか雑貨屋があるなら出しても良いだろうし、ネット販売しかしてない新鋭ブランドに声かけて期間限定で店内でポップアップスペースを作るなど、集客の方法を自社の枠組み「だけ」から広げてみてもいいのかなぁと感じました。

まさにこのTHE・PARK・ING・GINZAでは、一定期間で中に入っているお店自体が入れ替わる。だから内装もかっちり作り込まれたものではなく、ラックなどで可変することが前提で作られていました。つまり一定期間経つと商品という粒度ではなく、出ているお店自体が入れ替わるという大きな”ゆらぎ”が常に発生する状態に保たれていました。こうなると次はこのお店・その次はこのお店という感じで「わざわざお店まで足を運ぶ理由」ができてきます。

案の定ボクも何回もお店に行っていたし、期間限定のリーバイスショップでGジャンカスタムをした際にはブログにも書いています。

【参考記事】
世界で一着のデニムジャケット!THE PARK・ING GINZA の リーバイス・カスタムイベントに行ってきた!

このイベントではリーバイスのGジャンという、どこにでもあるアイテムをTHE・PARK・ING・GINZAのオリジナルワッペンでカスタムできるというイベントでした。どこにでもあるアイテムにオリジナルのパーツを組み合わせることで、独自の企画・商品に変えることに成功している。それによってボクは 1万5千円のGジャンにカスタム代はその倍の3万円。合計で4万5千円という、Gジャン1枚の3倍ものお金を支払っています。

POOL・THE・PARK・ING・GINZA・THE CONVENI。古くはレディメイドまで、ヒロシさんが2年ほどでお店を閉めて、新しいコンセプトでお店を出し直すのもさらに大きな”ゆらぎ”を求めてのことなのかもしれません。

他にもこんな商品はうまいなぁと思いました。

NewImage
画像引用:BAYCREWS

あまりにも有名な映画KIDSのワンシーンですね。実はJOURNAL STANDARDがオープン20周年を記念して、KIDSの監督であるラリークラークの作品を使ったアイテムを昨年展開しました。その中にヴィンテージのGジャンやネルシャツにKIDSのシーンがプリントされたアイテムがあったんですね。

今日、原宿の遊歩道を歩いていると、ジャーナル・スタンダードの店の前に見慣れた写真が。

そういえばジャーナル・スタンダードの20周年記念としてラリー・クラークのエキシビジョンを開催するって聞いてたんで、フラっと寄ってみると。。。

買っちゃ…

野田 大介

さんの投稿

2017年10月10日火曜日

ボディがビンテージのネルシャツなので、同じものは1つとしてない。シャツ1枚のような単価で在庫が1点しかないものを「ささげ」(=採寸・撮影・原稿のこと ) が必要な通販で売っていくことはコストが合わないので、しばらくは店舗の専売特許にもなっていくと思います。

このようにTHE・PARK・ING・GINZAのようにポップアップ「ショップ」という粒度でもいいし、JOURNAL STANDARDのようにラックや平台を使った「コーナー」という粒度でもいいと思います。

もっと言えば、通販にない商品という粒度でもいいと思います。先日、一緒に勉強会を主催しているディマンドワークスの齊藤さんと話していたときにノードストロームラックやTJMaxxのようなオフプライス・ストアがお客さんを集めていると聞きました。

以下は 齊藤さんのブログからの引用なのですが

アメリカでAmazonがグングン売上を伸ばし、小売シェアを高める中でも・・・着実に売上を伸ばし、高い営業利益率を上げているのがオフプライスストアというチェーンストア業態です。

(中略)

オフプライスストアには大きくわけて2つのタイプがあるようです。ひとつは百貨店系 Nordstrom_rack ノードストロームのノードストロームラックとサックスフィフスアベニューのOFF5TH。もうひとつは専業系でTJMaxx 、ROSS、Burlington など があります。あらためて調べてみましたが店舗数は

TJXグループ 2956店舗
ROSS 1622店舗
Burlington 641店舗
ノードストロームラック 235店舗
OFF5TH 129店舗
計 5583店舗

売上高は(米国のみ)
Tjmaxx TJXグループ 2兆9773億円
ROSS 1兆5000億円
Burlington 6647億円
ノードストロームラック 5392億円
OFF5TH 非公開
推計 5兆8000億円
なんとこの5社だけでアメリカのアパレルマーケットシェアの14% 相当あるのですね。

また、ノードストロームラックはノードストローム社の売上の33%を占めTJX、ROSS それぞれの営業利益率は13.3%、14.4%と チェーンストアの中でも極めて高水準。

とあります。ノードストロームラックやTJMaxxのようなオフプライス・ストアがどういうものかというと、これまた齊藤さんのブログに詳しいので、説明を委ねます(笑)。

オフプライスストアとは、著名なナショナルブランドやデザイナーズブランドのアパレル、服飾雑貨、アクセサリー、コスメ、ホームファッションなどの商品が、常時、百貨店や専門店で販売されている価格(定価)の20%~60%以上のディスカウント価格で購入できるチェーンストアです。

ディスカウントストアと区別される理由は、

アパレルメーカーや正規小売チェーン(百貨店、専門店)がシーズン中に在庫処分&換金目的でブランドアパレル&グッズなどを放出するものを業者が買い付けるクローズアウトマーケットというのがあって、

それらの在庫をオフプラスストアのバイヤーが現金で買い上げ、ただちに店頭に並べるという ビジネスのからくりの違い にあります。

ということです。要はラルフやカルバンクラインなど有名ブランドの商品が激安で買えるお店で、ボクも買い付けの際には必ず立ち寄っていました。そう聞くと「アウトレットと同じじゃん!」とと思われると思うのですが「宝探し感」が全然違うんですよね。

どういうことかというと、まずアウトレットは御殿場のアウトレットを想像してもらえれば良いかなと。値引率が30%〜50%くらいで各ブランドがそれぞれ店を構えている。お店もブランドの看板を背負っているのでプロパーの店舗と同じような内装やイメージ。一方でオフプライス・ストアは、店内にあるのは多種多様なブランドがミックスされている。以前の買い物旅行のブログにノードストローム・ラックの写真があるので、ぜひ見て欲しいのですが

【参考記事】
ソーホー|買い物中毒のファッション通販アドバイザーの買い付け日記 Day.4

っても絶対見ない人が多いので、ここに画像も貼っておきます。

Nordstrom1

Nordstrom2

Nordstrom3

まぁ雑多です(笑)。靴箱はその辺に散乱しているし、一番上の店内の写真もハンガーラックの上に洋服が散乱しているのが分かると思います。ノードストロームというと百貨店ということでカチっとしたイメージかもしれませんが、ノードストローム・ラックは別物。でもこれがあることで、より一層宝探し感が増幅されて「さぁ、掘り起こすよ!」というワクワク感が毎回毎回湧いてくるし、けっこう高確率で掘り出し物も出てくる。

店舗がなかなか立ち行かない、というアメリカの市場にあってもオフプライス・ストアが好調な理由としては、単純に値段が安いだけではなく「何か出てきそう」というワクワク感があるからこそ、みんな「わざわざお店に行こう」となっているのではないでしょうか。

お店に入って「宝探しが始まる」あの瞬間の高揚感、あれは絶対に通販サイトでは味わえないものです。

 

「便利さ」ではなく「楽しさ」こそが「わざわざお店まで足を運ぶ理由」に

とまぁいくつか紹介してきましたが、まとめていくとオムニチャネルが進むと「効率化」が進み、その先には「同質化」が待っていると思います。日用品などの「必要な買い物」においてはそれは絶対に必要なことだと思います。でもアパレルのような本来「楽しむ買い物」の場合、お客様に提供すべきは「買い物の便利さよりも楽しさ」なんじゃないかと。

そして「便利さ」ではなく「楽しさ」こそが「わざわざお店まで足を運ぶ理由」になると確信しています。

それには一定の不効率が必要となり、店内に通販サイトとは違う“ゆらぎ”を起こすことで必要だと考えています。ボクはこれを「意図した不効率」と呼んでいます。意図しない不効率はただの不効率だと思うので、効率的なオペレーションを組めるように改善すべき。でもここではあえて通販サイトとは別のことを不効率と分かった上で店内に持ち込むことで “ゆらぎ” が発生し、わざわざお店まで足を運ぶ理由になるのではないでしょうか?

具体的には

・ SNSで繋がっている会いたい人がいる

・ ポップアップ「ショップ」や「コーナー」のような異質な存在を店内に不定期に持ち込む ( 店頭のボディを変えただけで今の時代変わった感は出せない )

・ 通販には取り扱えない商品が揃っている ( 1点もの・カスタム )

・ 通販にはない商品が揃っている ( 少量でもいいので店舗限定商品を常に用意して通販サイトを見ただけではダメな状態という横のゆらぎ。または通販では先行予約をメインにして、店舗ではそこで人気の商品の追加が積まれている。通販が先物、店舗が今物のような時間軸を分けた縦のゆらぎ )

・「いいね!」や「フォロワー数」拡大に寄与できる坪効率度外視のプロモーション型店舗 ( 詳しくはこちらのブログを読んでね )

といったところでしょうか?

この施策のバリエーションについてはボクもまだまだ拾い集めている最中でして、まだまだ他にもあると思うので引き続き引き出しは増やしていきたいと思っています。

オムニチャネル化を推進する一方で、このような視点で同質化を避ける取り組みも並行して取り組んでいただけると店舗に漂う閉塞感が少しでも晴れていくのではないでしょうか?